1.グローバル

世界的に低調に推移、南北アメリカ、アジアは減少するも欧州は増加

2023年第3四半期の世界のベンチャーキャピタル市場は低調に推移し、取引総額と取引数は前四半期から減少しました。地域別では、南北アメリカとアジアで取引総額が減少した一方、欧州では増加しました。
  • 南北アメリカが最も多くの資金を集める一方、大規模案件はアジアと欧州に集中
  • ベンチャーキャピタルのこだわりが強くなるにつれ、案件成立が長期化
  • AIへの関心が世界中のベンチャーキャピタルの間で高まり続ける
  • IPO市場がわずかながら活性化

2023年第4四半期に注目すべきトレンド

世界市場の不確実性が継続しており、2023年第4四半期のベンチャーキャピタルによる投資は横ばい推移が予想されます。AI、エネルギー、クリーンテック分野は、多くの国・地域で魅力的な投資分野であり続けるでしょう。

2.米国

大型案件敬遠で微減、取引額上位案件が市場を牽引

2023年第3四半期の米国のベンチャーキャピタル投資は、投資家の大型案件敬遠により取引総額は微減しました。最大案件はAI企業のAnthropicの40億ドル、リチウムイオン電池リサイクル企業Redwood Materialsの9億9,700万ドル、AI企業Databricksの5億ドル、いずれも4億6,000万ドルの電池リサイクル企業Ascend ElementsとAxiom Spaceが続いています。

  • IPO市場にわずかながら明るい兆しが戻り、各社準備に取り組む
  • ベンチャーキャピタルが投資先企業との関係を強化
  • LPからの圧力により、ベンチャーキャピタルが初めて大きな課題に直面

2023年第4四半期に注目すべきトレンド

2023年第4四半期に向けて、テック系スタートアップがArmやInstacart、Klaviyoに続くか、IPO市場の動向に注目が集まるでしょう。IPO市場が回復すれば、投資家はバリュエーションの安定を確信し、M&A活動も回復する可能性があります。2023年第4四半期から2024年第1四半期の資金調達活動は低調が予想されますが、資金の流動性が戻れば再び活発化するでしょう。

3.南北アメリカ

取引総額・取引件数とも低迷、10年ぶりの低水準に

2023年第3四半期の南北アメリカにおけるベンチャーキャピタル投資は、取引総額・件数ともに低調に推移し、特に取引件数は10年ぶりの低水準でした。米国、カナダでの取引件数の減少とブラジル、メキシコでの微増は、同地域の市況を反映しています。

  • 南北アメリカの資金調達は依然として低調
  • ベンチャーキャピタルによる投資の減速にもかかわらず、カナダでは長期的な楽観論がみられる
  • ブラジルは軟調だったものの、引き続きベンチャーキャピタルからの関心を集める
  • クリーンテックへの関心が高まる

2023年第4四半期に注目すべきトレンド

2023年第4四半期、南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資は前四半期と比べ、堅調に推移すると予想されます。AI分野への投資は引き続き堅調で、特に革新的なユースケースに取り組むスタートアップが注目されるでしょう。また、ブラジルとラテンアメリカではフィンテックへの関心が高まり、南北アメリカ全体ではクリーンテックとエネルギー分野が引き続き注目されるでしょう。

4.欧州

メガディールによる微増、主要案件が市場を活性化

2023年第3四半期の欧州におけるベンチャーキャピタル投資は、メガディールにより前四半期比微増で推移しました。フランスのバッテリーリサイクル企業Verkor、スウェーデンのH2 Green Steel、英国の自動運転車企業Conigital、生鮮ドッグフードのButternut Box、スイスのAtlas Agroなど、当四半期中に2.25億ドル以上の案件が10件ありました。

  • 投資家がハードルを上げれば、すべての企業が生き残れるわけではない
  • フィンテックへの投資が欧州で軟化
  • 英国でのベンチャーキャピタルによる投資は軟調だが、エコシステムの活動は引き続き活発
  • ドイツのベンチャーキャピタルによる投資は依然低調
  • 北欧は厳しい四半期となるなか、H2 Green Steelが16億ドルを調達
  • アイルランドでは引き続き小規模案件が中心に

2023年第4四半期に注目すべきトレンド

企業の資金調達難から、2023年第4四半期の欧州におけるベンチャーキャピタル投資は軟調推移が予想されます。高金利環境が資金調達活動を低迷させ、市場に長期的な影響を与える可能性があります。ベンチャーキャピタル市場が逼迫するなか、勝ち組企業は資金調達を続け、他のスタートアップは勢いを失い、企業統合が進む可能性があります。市場全体が減速する一方で、AI、クリーンテック、健康・バイオテクノロジー分野は引き続きベンチャーキャピタルにとって魅力的であり続けるでしょう。

5.アジア

7四半期連続減少にもかかわらず日本市場は底堅く成長

2023年第3四半期、アジアのベンチャーキャピタル投資は7四半期連続で減少しました。中国ではGTA Semiconductorの18億7,000万ドル、Rox Motorの10億ドルなど、アジアにおける当四半期最大シェアを占めており、インドではJuniper Green Energyがインド国内における当四半期最大となる3億5,000万ドルを調達しましたが、市場全体は減少傾向です。一方、日本のベンチャーキャピタル市場は底堅く推移し、急成長していることが示されました。

  • 日本のIPO市場は世界的なトレンドに逆行、減速続く中国と香港(SAR)
  • 中国が生成AIに新たな規制を導入
  • インドへのベンチャーキャピタルによる投資が大幅に減少

成長を続ける日本のベンチャーキャピタルエコシステム。スタートアップはより大きなラウンドを実施

2023年第3四半期、日本のベンチャーキャピタルによる投資は好調で、テレイグジスタンス、五常・アンド・カンパニー、ジョーシス、Mujin、キャディなど、以前よりも大きな規模の資金調達を行う企業が増えています。

日本でロボティクスとバイオテクノロジーにフォーカスしたディープテックソリューションへの関心が高まる

2023年第3四半期、日本のベンチャーキャピタルはESG、エネルギー、AIなど幅広い分野で関心を高め、特にロボティクス、自動運転、バイオテクノロジー、ヘルスケアなどのディープテックソリューションが注目されています。当四半期中、AIロボティクス企業のテレイグジスタンスとMujinが大規模な資金を調達しました。

2023年第4四半期に注目すべきトレンド

経済的、地政学的な不確実性のなか、2023年第4四半期はアジアにおけるベンチャーキャピタル投資は軟調が予想されますが、日本のベンチャーキャピタル市場とエコシステムは成長が続くとみられます。一方、中国では不動産市場の流動性の課題が解決すれば、ベンチャーキャピタル投資が今後数四半期内に改善する可能性があります。

英語コンテンツ(原文)

Q3’23 Venture Pulse Report – Global trends

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