パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表

2023年10月6日に、パーシャルスピンオフの会計処理に関して、企業会計基準委員会(ASBJ)からは「自己株式等会計適用指針案」および「税効果適用指針案」が、日本公認会計士協会(JICPA)からは「資本連結実務指針案」が公表されました。コメント募集は、2023年12月6日までとなっています。

パーシャルスピンオフの会計処理に関して、ASBJからは「自己株式等会計適用指針案」および「税効果適用指針案」が、JICPAからは「資本連結実務指針案」が公表されました。

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、2023年10月6日に、企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、自己株式等会計適用指針案)および企業会計基準適用指針公開草案第81号(企業会計基準適用指針第28号の改正案)「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(以下、税効果適用指針案)を公表しました。

また、同日、日本公認会計士協会(以下、JICPA)も、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正案(以下、資本連結実務指針案)を公表しています。

自己株式等会計適用指針案、税効果適用指針案および資本連結実務指針案(以下、本公開草案)へのコメント募集は、2023年12月6日までとなっています。

経緯

企業の事業部門を分離・独立させるスピンオフの手法としては、分割型分割や子会社株式を株主に現物配当する方法があり、税務上も一定の条件を満たす場合、適格分割型分割・適格株式分配として認められていました。

上記の適格株式分配は完全子会社株式のすべてを現物分配するスピンオフが対象となりますが、2023年度税制改正で、完全子会社株式の現物分配の際に一部持分(20%未満)を残すパーシャルスピンオフで一定の要件を満たす場合も、適格組織再編に加えられました(2023年度末までの時限措置。なお、経済産業省からの令和6年度税制改正要望ではパーシャルスピンオフ税制の恒久化が挙げられている)。

これを受けて、パーシャルスピンオフに関する会計処理を検討することが基準諮問会議からASBJへ提言され、当該提言を受けて検討し公表されたのが、自己株式等会計適用指針案と税効果適用指針案です。なお、パーシャルスピンオフに関する会計処理では、JICPAの実務指針にも影響するため、同時にJICPAから資本連結実務指針案も公表されています。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-1

※会社法上および会計上は「現物配当」という用語が用いられるため、本稿では基本的に「現物配当」としていますが、税務上は「現物分配」という用語が用いられるため税務上の説明箇所では「現物分配」としています。

内容

I.概要

本公開草案では、分離元企業(子会社株式を配当する企業)における会計処理のうち、次の3つの論点を対象としています(図のII、III、IVは、後述のII、III、IVと対応しています。)。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-2
  • 子会社株式の一部を分離元企業の株主に現物配当する場合の、分離元企業の個別財務諸表上の取扱い
  • 子会社株式の一部を分離元企業の株主に現物配当する場合の、分離元企業の連結財務諸表上の取扱い
  • 配当対象となる子会社株式に関する連結税効果の取扱い

まず、パーシャルスピンオフを実施した場合の分離元企業の個別財務諸表上では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当し、残余持分が子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における子会社株式の適正な帳簿価額でその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額することが提案されています。

次に、連結財務諸表上でも、上記と同様に連結財務諸表上の子会社株式の帳簿価額で純資産を減額することとし、連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額には差額があるため、この差額の取扱いが提案されています。

そして、パーシャルスピンオフによって解消する連結財務諸表における一時差異も、「連結固有の将来減算一時差異又は連結固有の将来加算一時差異」と同様に取扱い、パーシャルスピンオフが税務上非適格となる場合、繰延税金資産・負債の認識が必要となることが提案されています。

II.子会社株式の一部を分離元企業の株主に現物配当する場合の、分離元企業の個別財務諸表上の取扱い

現行の取扱いでは、「配当財産が金銭以外の財産である場合、配当の効力発生日(会社法第454条第1項第3号)における配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として、配当財産の種類等に応じた表示区分に計上し、配当財産の時価をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。」(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針第10項)とされています。ただし、分割型の会社分割(按分型)と保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合には、「配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。」(同項但書)とされています。

つまり、現行の取扱いに照らすと、スピンオフ(分割型分割または子会社株式の株主への現物配当)については、適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額する一方で、パーシャルスピンオフに関しては、上記10項の原則どおり時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額し、配当財産である子会社株式の帳簿価額と時価との差額を損益として認識することとなります。

この点について、次の自己株式等会計適用指針案第38-2項に挙げられた理由から、上記10項但書の分割型の会社分割(按分型)と保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合と同様の取扱いとすることが適当と考えられました。

自己株式等会計適用指針案第38-2項

一部の持分を残す按分型の完全子会社株式の配当が株式数に応じて比例的に行われ、スピンオフとして当該完全子会社の事業を分離・独立させる目的で行われる場合には、既存の株主以外の第三者が取引に参加していないことから、取引の趣旨を踏まえ総体としての株主の観点から取引全体を俯瞰すると、株式配当の実施会社を通じて保有していた完全子会社を自ら直接保有することとなる組織再編であると考えられる。この場合、総体としての株主にとっては当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられ、共通支配下の取引である組織再編に類似した状況と考えられる

そこで、自己株式等会計適用指針案では、10項但書の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額する対象に、「保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合」を加えることを提案しています。

○現物配当の会計処理

10項本則の原則的な会計処理
  • 配当財産の時価でその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額
  • 配当財産の時価と帳簿価額の差額は、配当が効力を生じる期の損益
10項但書の例外的な会計処理
  • 配当財産の帳簿価額でその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額
10項但書の例外的な会計処理の対象となる取引(抜粋)
  • 分割型の会社分割(按分型)
  • 保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合
  • 【自己株式等会計適用指針案で追加を提案】 保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合

※現行規定のとおり、「完全子会社株式」に修正することは提案されていない

III.子会社株式の一部を分離元企業の株主に現物配当する場合の、分離元企業の連結財務諸表上の取扱い

本公開草案では、上記IIの保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合の分離元企業の連結財務諸表においても、連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するのが適切と考えられました。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-3

ただし、連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額には差額が生じえることから、子会社株式に係る個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額(投資の修正額)の取扱いが提案されています。

個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差(投資の修正額)が生じるのは、次のような場合です。

1 子会社株式の取得にかかる付随費用
2 支配獲得後の子会社株式の追加取得時の持分相当額と対価の差額
3 その他 子会社化後に子会社の次の項目等の持分相当額が増減した場合など
  • 利益剰余金
  • その他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金や為替換算調整勘定など)

なお、投資の修正額は、上記3でその他包括利益累計額が負の値となる場合など、負の金額となる場合があります。この場合、配当の会計処理において個別財務諸表上で純資産から減額する額よりも、連結財務諸表上で純資産から減額する額の方が小さくなります。そのため、「連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額する」とは、個別財務諸表上で減額しすぎた純資産を連結財務諸表上で戻すように、連結調整仕訳上は純資産を増額する場合も含みますのでご留意ください。

上記1の場合、子会社株式の取得にかかる付随費用は、個別財務諸表上は帳簿価額に含まれるものの、連結財務諸表上では支配獲得時に費用処理されているため、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じています。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するためには、個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正することが提案されています。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-4

また、上記2の場合、追加取得時には、個別財務諸表上は追加投資額分帳簿価額が増加しますが、連結財務諸表上は追加取得により増加した親会社持分分帳簿価額が増加しますので、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じています(当該差額は、連結財務諸表上資本剰余金として会計処理されています)。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するためには、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、当該差額部分に対応する額を修正することが提案されています。この結果、追加取得時の当該差額は、パーシャルスピンオフ後もそのままの金額が、資本剰余金に計上され続けることになります。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-5

そして上記1、2以外の場合、たとえば、支配獲得後に子会社が獲得したその他包括利益の持分相当額分連結財務諸表上の帳簿価額が増減しますので、個別財務諸表上の帳簿価額との間に差が生じます。この差額は、連結財務諸表上利益剰余金やその他包括利益累計額に計上されています。本公開草案では、パーシャルスピンオフによって持分が減少するのに伴い、利益剰余金やその他包括利益累計額に計上されたこの差額のうち配当した部分に対応する額を連結株主等資本計算書(SS)上で、利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって取り崩すことが提案されています。このとき、その他包括利益累計額は純損益に振り替えることはしないものとされています。

なお、パーシャルスピンオフによって残余持分が子会社株式及び関連会社株式に該当しなくなる場合、この残余持分は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価する(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項)ため、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額との差額のうち残余持分にかかる差額も、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって取崩します。

パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案の公表-6

IV.配当対象となる子会社株式に関する連結税効果の取扱い

パーシャルスピンオフによって解消する連結財務諸表上の一時差異も「連結固有の将来減算一時差異または連結固有の将来加算一時差異」として扱うことが提案されています。

この場合、税効果適用指針案第124-3項では、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第8項(3)の定めに従って税金の見積額を繰延税金資産または繰延税金負債として計上することとされ、「税制適格となる場合には将来の税金の見積額はゼロとなる一方、税制非適格となる場合には配当により税務上損金算入されることにより減少する税金の額又は配当時に追加で納付が見込まれる税金の額が税金の見積額となる」ことが明示されています。

なお、ASBJにおける審議の過程で、税務上非適格となるパーシャルスピンオフに起因する法人税、住民税及び事業税等は、企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引を行う前の段階で課税されるものと考えられることから、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」第5項(1)の「企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引のうち、損益に反映されないものに対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等」には該当せず、損益に計上する見解を示しています(第507回企業会計基準委員会審議事項(2)-2)。

V.適用時期

適用時期は次のとおり提案されています。

  1. 最終基準公表日後ただちに適用
  2. 最終基準適用日前に行われたパーシャルスピンオフについて、最終基準適用日における会計処理の見直しおよび遡及的な処理は行わない

執筆者

有限責任 あずさ監査法人 会計プラクティス部 シニアマネジャー 鈴木 和仁

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