女性版骨太の方針2023~企業情報開示の視点から~

2023年6月13日に、「女性版骨太の方針2023」が閣議決定されました。女性の社会進出を後押しする政府方針や取組みを振り返り、今後企業においてどのような対応が必要となるか情報開示の視点から見ていきます。

2023年6月13日に、閣議決定された「女性版骨太の方針2023」について、今後企業においてどのような対応が必要となるか情報開示の視点から見ていきます。

1.わが国における女性活躍の目標と達成状況

日本政府が、女性活躍についての具体的な目標を設定したのは2003年に遡ります。「社会のあらゆる分野において、指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度となるよう期待する」との目標が掲げられ、その達成時期は2020年とされていました。しかし、2020年までの間で女性の参画が進んだ分野があったものの、社会全体として30%の目標には届きませんでした。内閣府男女共同参画局公表の情報によれば、2020年の段階で、日本における管理的職業従事者に占める女性の割合は13.3%であり、目標の30%に対して大きく未達となりました。

そのような中、2020年12月に閣議決定された男女共同参画社会基本法に基づく「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」(以下、第5次基本計画といいます。)において、この目標はアップデートされました。指導的地位に占める女性の割合が 2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取組みを進めるとされており、目標達成時期の再設定が行われました。さらに、その水準を通過点として、指導的地位に占める女性の割合が30%を超えて更に上昇し、2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指すという長期的なビジョンも示されました。

加えて、第5次基本計画では、女性活躍推進に向けての課題として男女間での待遇差も重要な課題として挙げています。近年女性の就業者数は増加傾向にあるものの、非正規雇用へ従事する割合が多いことなどから、女性就業者の増加ほどには女性管理職比率は増加していないという現状があります。また、一般的には正規雇用と非正規雇用の間には給与等の処遇面での格差があることから、男女賃金格差の解消も大きくは進んでいません。したがって、女性管理職比率の上昇と男女賃金格差の解消はそれぞれが独立した課題ではなく相互に関連しており、一体として取り組んでいくべきテーマであると考えられます。

2.女性活躍の目標達成に向けた近年の制度改正

これらの女性活躍の目標に向けた各企業の取組みをより深化していくことを目的として、昨年に公表された「女性版骨太の方針2022」では、女性活躍推進法の制度改正を実施し、常用労働者301人以上の事業主に対し、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を開示することが義務化されました。

また、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、2023年3月期決算から、法律に基づき女性管理職比率、男性の育児休業等取得率および男女賃金格差の公表を行う会社は、金融商品取引法に基づいて開示される有価証券報告書においても同様の開示が義務付けられました。

これらの制度改正に加えて、「女性版骨太の方針2023」では、企業情報開示に関してどのような内容が盛り込まれたでしょうか。留意すべき2つのポイントを以下に取り上げます。

3.女性版骨太の方針2023の企業情報開示におけるポイント

(1)女性役員比率

この20年ほどの間に、諸外国では、指導的立場における女性比率の向上に向け、役員クオータ制の導入などにより女性役員比率を大きく向上させることに成功しています。また、昨今は国内外の機関投資家も、投資先における経営者のジェンダーバランスを重視する傾向が強まっています。そうした環境の中、日本においても女性役員比率は上昇しているものの、2022年7月末時点で9.1%(内閣府男女共同参画局公表情報)に留まり、諸外国との差は大きく開いているのが現状です。そのため、「女性版骨太の方針2023」では、プライム上場企業を対象とした女性役員比率の数値目標が設定されました。そして、取引所の規則である、コーポレートガバナンス・コードに以下の規定を設けるための取組みが進められることとされています。

  • 2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
  • 2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
  • 上記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。

このような努力目標の設定が予定されていますが、国際的なトレンドや機関投資家からの視点も踏まえ、各企業においてはどのようにこの目標を達成するシナリオを描くか、できる限り早期に行動計画を策定し、その達成に向けたコミットメントを行っていくことが必要と考えられます。

(2)男女賃金格差

「女性版骨太の方針2022」にて決定された女性活躍推進法に基づく男女賃金格差の開示に伴う更なる対応として、本制度の施行状況に係るフォローアップを行い、常時雇用労働者101人から300人の事業主への公表義務の対象拡大の可否について、必要な検討を行うこととされました。

女性活躍推進法に基づく公表義務の対象拡大が行われると、同法に基づき開示が義務付けられる企業が大きく増加することに加え、上場企業のグループ会社においては、新たに有価証券報告書においても同様の情報が開示対象となることが考えられます。そのため、新たに公表義務が課されると想定される会社においては、女性活躍推進法に基づく数値の公表および有価証券報告書における開示に備えて、遅滞なく情報収集を行うための体制構築が課題になると考えられます。

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン マネジャー 鍋谷 鶴継

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