社会課題に関連する開示タスクフォースが統合へ

2023年4月、不平等関連財務情報開示タスクフォース(TIFD)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(TSFD)の設立準備組織が、社会課題に関連する開示の枠組みの開発に向け、両タスクフォースの統合をすすめると表明しました。

不平等関連財務情報開示タスクフォース(TIFD)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(TSFD)の設立準備組織が、両タスクフォースの統合をすすめると表明しました。

これまでの動向

2023年4月、不平等関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Inequality-related Financial Disclosures、以下「TIFD」)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Social-related Financial Disclosures、以下「TSFD」)の設立準備組織が、社会課題に関連する開示の枠組みの開発に向け、両タスクフォースの統合をすすめると表明しました。

TIFDは、企業と投資家が不平等(Inequality)に与える影響、および企業や投資家が不平等から生じる影響の両面を管理・測定するためのガイダンス、指標および目標を提供するための組織として、2021年9月に設立に向けた暫定事務局が組成されました。その後、組織運営体制や技術的ワーキンググループにおける検討事項に関するディスカッション等、正式な発足に向けた準備が進められてきました。

一方、TSFDは2022年6月にBusiness for Inclusive Growth(B4IG)の理事会において、社会的指標に関する開示の枠組みを検討する組織として設立が提案され、準備組織の立ち上げが進められてきました。

提唱している組織の特性や成り立ちの経緯は異なるものの、いずれの取組みも、先行するサステナビリティ関連開示のフレームワークである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、ないし自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組みを踏襲し、社会課題に関する財務情報開示のフレームワークを構築していく点で共通しています。両組織の統合は、社会課題への取組みの必要性に関する認知の向上と具体的な成果の実現に向けて、これから動きを加速させていくものと考えます。今回の統合は、後述のように経済人の集まりであるWBCSDが大きく関与していることに特徴があります。Inequalityの課題が、経営に影響を及ぼすシステミックリスクとの認識が拡大していることの一端を示しているともいえるでしょう。

統合の背景と今後の予定

今回の統合は、持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development、以下「WBSCD」)が支援することとなっています。5月下旬にKPMGジャパンが行ったインタビューで、WBCSDで格差是正に関する活動に携わっているJames Gomme ディレクター(インタビュー時点)は、「WBCSDは今後、両組織の統合を進める事務局としての役割を担っていく」と述べました。また、統合後のTIFDの具体的な活動について、「2023年の第3四半期には両組織を統合したワーキンググループを組成し、議論を進めたうえで、第4四半期、ないし2024年の第1四半期には社会課題に関する最初の開示基準案を公表したい」との意向を示しました。

WBCSDは、2021年7月に不平等に取り組むイニシアティブであるThe Business Commission to Tackle Inequality(BCTI)を立ち上げており、2023年5月に公表した報告書“Tackling Inequality: An agenda for business action”では、不平等の解消に向けて企業が起こすべき10のアクションを、実際の取り組み事例を交えて紹介する等、企業に対して不平等の意解消に向けた行動を促しています。

Gommeディレクターは、今回の統合とBCTIにおける取組みとの関係性について、「BCTIのこれまでの取組みは、不平等の解消について企業に熱意(Ambition)と行動(Action)を促すものであった。今回、TIFDとTCFDの統合を支援することは、これらに加えて、企業には不平等解消に関する説明責任(Accountability)の遂行を促すことができる。」とコメントしています。

社会課題に関する報告の枠組みの今後

社会課題に関する報告の枠組みに関しては、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が2022年11月に公表した欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の公開草案で、社会課題に関連し、自社の労働者、バリュー・チェーンの労働者、影響を受けるコミュニティ、顧客およびエンドユーザーの4つの開示基準を提案しています。また、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年5月に公表した「情報要請:アジェンダの優先度に関する協議」(Request for Information and comment letters: Consultation on Agenda Priorities)において、今後の2年間の作業計画に追加する可能性がある新たなリサーチおよび基準設定のプロジェクトとして人的資本、人権を提案しており、国際的な基準設定主体における動きが活発化しています。

ESRSの公開草案、ISSBの情報要請が報告対象として想定している領域は、統合後のTIFD、が開示フレームワークとして構築していくことを検討している領域とも重複しています。Gommeディレクターは、ISSBとも議論を行っていることを明らかにしており、今後、統合後のTIFDによる社会課題に関する財務情報開示フレームワークの検討は、国際的な開示枠組みの検討においても、一定の役割、ないし影響力を持つことが考えられます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人 KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン シニアマネジャー 瀧澤 裕也

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